杏仁ーきょうにんーキョウニン | |
基原植物和名 | |
杏、杏子、あんず、アンズ 唐桃、からもも、カラモモ |
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生薬名 | |
杏仁、きょうにん、キョウニン 苦杏仁、くきょうにん、クキョウニン 苦杏 光杏仁 光杏 杏仁泥 苦北杏仁 北杏 龍王大南杏仁 |
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基原植物学名(ラテン語名) | |
Armeniacae Semen | |
生薬英語名 | |
Apricot Kernel | |
植物英語名 | |
Prunus armeniaca L var anus Maximowicz | |
分布 | |
杏、杏子(あんず)はサクラ属ーばら科の植物で、薬用部分はアンズの果実から 取り出した種子を用います。これを生薬名で杏仁(きょうにん)と言います。 杏仁は日本薬局方に記載されています。 キョウニンの名前の由来としてキョウニンの「キョウ」は「杏(アンズ)」を指しており、 キョウニンの「ニン」は「仁」と書き、これは種子を意味します。 つまり「キョウニン」は「杏の果肉を取り除いた種子」の事を指します。 参考・・・キョウニンと同じく「仁(種子)」のつく生薬は「桃仁」、「酸棗仁」、 「カ楼仁」、「郁李仁」、「柏子仁」、「麻子仁」、「ヨク(※1)苡仁」 などがあります。(※1ヨク=くさかんむり+意) キョウニンは日本薬局方に記載されています。 杏子は主に中国北部の山岳地帯が原産と言われ、中国では2千年も昔から栽培されていた と言われます。 やがてアンズはヨーロッパに伝わり品種改良を経て中東、アメリカ、北アフリカ等で 栽培されています。 杏仁は神農本草経の中薬(中品)に記載されており、内容として 「主咳逆上気雷鳴、喉痺、下気、産乳、金創、寒心賁豚。生川谷。」 と書かれています。 日本に渡来した時代は不明だが奈良時代の書物の「風土記」に生薬名「杏仁」 の文字が見られます。 後、平安時代に書かれた現存する日本最古の薬学辞典と言われる 「本草和名(ほんぞうわみょう)」や同じく平安時代に書かれた日本最古の 百科事典と言われる「和名抄(わみょうしょう)」に唐桃(からもも)の 和名に杏子を用いています。 日本では江戸時代に活躍した古方派の漢方医吉益東洞が書いた薬徴によると 薬徴・・・・「胸間ノ停水ヲ主治スル也。故ニ喘咳ヲ治シ而シテ傍ラ短気、結胸、 心痛、形体ノ浮腫ヲ治ス。」と書かれています。 明治時代に活躍した折衷派の漢方医浅田宗伯が書いた古方薬議によると 古方薬議・・・・「味甘温、気ヲ下シ、肌ヲ解シ、結ヲ散ジ、燥ヲ潤シ、 ガイ逆上気ヲ主リ、狗毒ヲ殺ス。」と書かれています。 昔から中国では医者のことを「杏林(きょうりん)」と呼んでいました。 その由来として古代中国の西晋時代に活躍した葛洪という人の書物で「神仙伝」に 董奉という仙人がおり、董奉は色々な人々の病気を治療していました。 だが董奉は治療代を無理にとらずに杏の木を治療代の代わりに貰って植えた所、 立派な杏林になったと言う故事から「杏林」=「医者」になりました。 余談・・・ 「神仙伝」は仙人について書かれている本で「老子」、 「墨子」や三国志に登場する「左慈」も仙人として書かれています。 杏は薬用酒としても昔から愛用されており、江戸時代の俳人与謝蕪村の愛弟子の 黒柳召波が詠んだ句に「医者どのと酒屋の間の杏かな」があります。 現在、アンズの栽培は日本では長野県や青森県などの寒冷地が主な栽培地 とされています。 長野県千曲市は杏の栽培が日本一で「あんずの里」と言われます。 千曲市が杏栽培を始めたのは江戸ー元禄時代の信州第三代松代藩主、真田幸道公に 伊予宇和島藩主伊達宗利公(伊達政宗の孫)の息女、豊姫が信州松代藩に嫁いだ時に 故郷を偲ぶために杏の種子を持って嫁いだのが起源と言われます。 余談・・・豊姫が故郷を偲ぶ品として持参したあんずの種子ですが、 最近まで宇和島市には杏の木は全くありませんでしたが、現在は姉妹都市の千曲市から 杏の樹木を頂いて植えております。 宇和島は「じゃこ天」、「鯛めし」などの海の幸が美味しい地域です。 私事で申し訳ございませんが、宇和島のおすすめはアコヤガイの貝柱が珍味で おすすめです。 宇和島は真珠養殖が盛んな地域で、真珠を取るために使うアコヤ貝が大量に 養殖されています。 余談・・・アンズは英名で「アプリコット」と言われ、アンズの果実はヨーロッパや アメリカではジャムやシロップ゚漬け、アプリコットパイに加工されて食されています。 杏仁には「苦杏仁」と「甘杏仁(甜杏仁)」があり、苦杏仁は主に医療用に用いられ、 甘杏仁(甜杏仁)は主に杏仁豆腐に使用されます。 冬瓜はうり科ートウガン属に属する植物で、原産地は東南アジアが原産地と言われ、 今はアジア、アメリカ、アフリカなどの世界中で栽培されているつる性の1年草植物です。 |
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特徴・形態 | |
アンズの特徴として樹高5メートルほどの木で樹皮は硬く、褐色で梅の木に よく似ています。 アンズの葉は互生しており、葉の先がとがっています。葉の形は卵形と 楕円形の葉があります。 花期は3月から4月で、葉より先に淡紅色の5弁花を咲かせます。 やがて円形の果実が実り初め、6月の初夏から夏にかけて果実が黄色に熟します。 その時に熟した果実の中に扁圧した心臓型で先が尖り後が丸みのある種子があります。 この種子は茶褐色で薄い皮を被っています。 薬用部分として6月から夏に杏子を採取して果皮、果肉、殻を取り除き残った種子を 天日で乾燥させた物を杏仁と言います。 (果実を採取する時に新しくて虫が付いていない果実を採取します。虫が付いていたり、 古い果実は有効成分が少なくなっている可能性があります。) 杏仁は桃仁とよく似ているが杏仁は桃仁に比べて小形で桃仁のように細長くなく、 全体的に丸みがあって肉厚である。脂肪分は桃仁に比べて少ないです。 余談・・・昔の杏仁の取り方は熟したアンズの果実を土に埋めて果肉を腐らせて、 種子の周りの硬い殻を叩き割って種子を取り出したそうです。 余談・・・4月12日の誕生花は「アンズ」で、花言葉は「ハニカミ」です。 |
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成分 | |
杏仁にはアミグダリン約3%、脂肪油35~50%、エムルジンを含んでおります。 注意・・・ アンズや桃や梅には青酸化合物のアミグダリンが含まれており アミグダリンは酵素の働きにより青酸、ブドウ糖、ベンズアルデヒドに 分解されます。 (参考・・・ベンズアルデヒドは杏仁特有の香りの元です。) アミグダリンを含む杏の種や桃の種や梅の種、枇杷の種は十分に乾燥させましょう。 十分乾燥されていない物は使用しないで下さい。 杏仁を大量服用すればアミグダリンが水分解で発生する青酸の量が増えて、 青酸中毒を起こす場合があるので、大量服用は禁忌です。 |
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使用部位 | |
アンズの果皮、果肉、種子を被う殻を取り除いた種子の部分(日本薬局方) (杏仁 きょうにん キョウニン) 参考・・・種子のとがった部分は削除します。皮は別に取り除かなくても良いです。 (杏仁豆腐にする場合は皮を削除する。) |
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採取時期と管理・保存方法 | |
杏仁の採取時期は6月頃にアンズの果実を採取してその中から種子を取り出して、 (出来れば種子の先端のとがった部分を取り除きます。)種子から皮をのけずに 風通しの良い場所で日干しを行って乾燥させます。 民間療法としてアンズの花を採取して日干しを行い、日干し乾燥した花を ハチミツ漬けにして常食する場合もあります。 |
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薬効、服用方法 | |
杏仁は日本薬局方によると漢方処方用薬であり、鎮咳去痰薬とみなされる処方及び その他の処方に配合されています。 また、キョウニン水の製造原料とされることもある。 他に杏仁を煎じて服用すると胸間の水毒が原因の咳嗽、切れの悪い痰(湿痰)などを 鎮める作用、喘息に伴う浮腫改善作用、利尿作用、老人や虚弱な人の常習便秘改善作用 があり、喘息、呼吸困難、咳嗽、去痰、利尿、慢性便秘などに効果があると言われます。 杏仁を煎じる場合は 杏仁約3グラムから5グラムを水600ccから800ccの中に入れて弱火で 15分から20分程煎じて1日数回服用します。 (私個人的には杏仁単独服用よりは杏仁を含む漢方処方(麻黄湯、麻杏甘石湯、 苓甘姜味辛夏仁湯、茯苓杏仁甘草湯、麻子仁丸など)を服用することをお勧めします。) 参考・・・杏仁の大量服用は青酸中毒を起こす場合がありますので出来れば 少量を煎じて服用してください。 又、幼児への杏仁単独服用も青酸中毒になる恐れがありますのでお勧めできません。 咳止め薬として杏仁を蒸留して精製水とエタノールを加えた杏仁水がありますが、 これは医師の指示、指導が必要です。 (杏仁水の代わりに杏仁と同じようにアミグダリンを含んでいる桃仁で作った桃仁水が ありますが、これも杏仁水と同じように医師の指示、指導が必要です。) 杏仁の粉末の場合は 粉末の杏仁を1日3グラムから6グラムを目安に水またはぬるま湯で1日数回服用するか、 お湯に混ぜて服用してください。(小さじ半分ぐらいが約1グラムです。) 「粉末が咽喉に引っかかる」、「味が苦手」などの支障がある場合はオブラードに 包んで服用しても結構です。 市販されています杏仁豆腐を食すればとても美味しいです。 民間療法としてアンズの花を採取して日干しを行い、日干し乾燥した花をハチミツ漬け にして常食する場合もあります。 |
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杏仁の薬用酒 | |
杏仁の薬用酒とアンズの実の薬用酒があります。 杏仁の薬用酒の作り方 杏仁を薬用酒として服用すると咳止め、咽頭痛の緩和、喘息予防などに効果があります。 杏仁の薬用酒の作り方ですが 杏仁・・・200グラム 氷砂糖・・・200グラム又はグラニュー糖200グラム ホワイトリカー・・・1.8リットル (他に色々な薬草を混ぜてミックス薬用酒を作っても良いです。) これらの品を容器に入れて約3か月ほど直射日光の当たらない場所で熟成させます。 熟成させる時に出来るだけ空気に触れないようにしっかり密封して下さい。 密閉できる容器を使用して下さい。空気に触れると味が変わる恐れがあります。 30日に1回は中身を2回から3回程振って均等に成分が出るようにしてください。 人によっては味の好みが異なりますので、30日に1回は味見をしてお好みの味で あれば薬草を引き上げても結構です。 3か月ほど熟成させたら木綿の布かコーヒー用の濾過紙で濾過しながら薬草を取り出し、 杯1杯を目安に服用します。 飲みにくい場合は蜂蜜や水飴、砂糖で味を調えても結構です。 アンズ酒の作り方ですが 熟す手前のアンズ約1キログラムを丁寧に汚れを拭き取ってからホワイトリカー 1.8リットルと氷砂糖200グラム~400グラム(お好みで量を加減)の中に入れて 最低でも3ヶ月程漬け込んで、飲み頃になれば就寝前にさかずき1杯を目安に服用します。 アンズ酒には咳止め、疲労回復の作用があると言われます。 |
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生薬との組み合わせ | |
杏仁+麻黄・・・杏仁と麻黄を組み合わせることにより身体の表面や上焦に 停滞している熱や水分を身体全体に巡らせたり、体外に排出させたりします。 又、水毒が原因の咳嗽、喘息、切れの悪い痰(湿痰)などの症状に効果があります。 杏仁と麻黄の組み合わせは実証の人の鎮咳、喘息症状の緩和などが期待出来ます。 (処方例・・・麻黄湯、麻杏甘石湯、桂麻各半湯、大青竜湯、麻黄加朮湯、 麻杏ヨク(※)甘湯、続命湯、五虎湯、神秘湯など)(ヨク=くさかんむり+意) 杏仁+茯苓・・・杏仁と茯苓を組み合わせることにより身体の表面や上焦に 停滞している熱や水分を身体全体に巡らせたり、体外に排出させたりします。 又、水毒が原因の咳嗽、喘息、切れの悪い痰(湿痰)などの症状に効果があります。 杏仁と茯苓の組み合わせは虚証の人の鎮咳、喘息症状の緩和などが期待出来ます。 (処方例・・・苓甘姜味辛夏仁湯、茯苓杏仁甘草湯など) 杏仁+ヨクイニン・・・杏仁とヨク苡仁を組み合われることにより水毒、 湿毒を体外に排出させます。 特に関節の浮腫、疼痛を緩和します。 (処方例・・・麻杏ヨク(※)甘湯)(ヨク=くさかんむり+意) 杏仁+麻子仁・・・杏仁と麻子仁を組み合わせることにより腸壁に潤いを与えて 便通を良くする作用があります。(処方例・・・麻子仁丸、潤腸湯) 杏仁+桑白皮・・・杏仁と桑白皮を組み合わせることにより上焦に停滞している水分を 身体全体に巡らせたり、体外に排出させたりします。 又、水毒が原因の咳嗽、喘息、切れの悪い痰(湿痰)などの症状に効果があります。 (処方例・・・清肺湯) 杏仁+貝母・・・杏仁と貝母を組み合わせることにより去痰作用を高めます。 (処方例・・・清肺湯) 桂枝湯+厚朴、杏仁・・・・傷寒論に桂枝湯の証で喘息の症状がある場合は 「桂枝湯加厚朴、杏仁」と書かれています。 |
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杏仁を含む漢方処方 | |
桂麻各半湯 桂枝二麻黄一湯 麻黄湯 麻黄加朮湯 麻杏甘石湯 大青竜湯 麻杏ヨク(※)甘湯 (ヨク=くさかんむり+意) 続命湯 五虎湯 苓甘姜味辛夏仁湯 茯苓杏仁甘草湯 神秘湯 清肺湯 など |
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参考資料 | |
神農本草経ー中品(中薬) 「味甘温。生川谷。治逆上氣。雷鳴喉痺。下氣。産乳金創。寒心賁豚。」 薬徴 「主治胸間停水也。故治喘咳。而旁治短気。結胸。心痛。形体浮腫。」 古方薬議 「味甘温。気ヲ下シ、肌ヲ解シ、結ヲ散ジ、燥ヲ潤シ、咳逆上気ヲ主リ、狗毒ヲ殺ス。」 |
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その他 | |
日本でアンズの栽培が盛んな所は長野県で、その長野県の千曲市や私が住んでいる愛媛県の 南部にある宇和島市の市の花がアンズであります。 杏仁を大量服用すると、呼吸困難、眩暈、嘔吐、痙攣などの中毒症状が起こりますので 用量を守ってください。 杏仁水を利用する場合も医師による指示、指導をお願いします。 |
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注意事項 | |
①本品は天然物(植物)で性質上吸湿しやすいものがあります。 そのため保存には十分ご注意ください。保存が悪いとカビ、虫害等の発生する原因に なることがあります。 ②開封後は直射日光の当たらない湿気の少ない涼しい場所に保管してください。 ③本品には品質保持の目的で脱酸素剤を入れておりますので、一緒に煎じたり、 食べたりしないようにご注意ください。 ④幼児の手の届かない所に保管してください。 ⑤他に容器に入れ替えないで下さい。(誤用の原因になったり品質が変わる場合があります。) |
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ご相談、ご質問 | |
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参考文献 | |
北隆館ー原色牧野和漢薬草大図鑑 | |
杏(アンズ)の写真 | |
杏(アンズ)ー花 | 杏(アンズ)ー果実 |
苦杏仁(クキョウニン)ー種子 | |
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