枳実ーきじつーキジツ | |
基原植物和名 | |
橙、だいだい、ダイダイ 代々 座代々、ざだいだい、ザダイダイ 回青橙、かいせいとう、カイセイトウ 夏蜜柑、なつみかん、ナツミカン 夏橙(夏代々)、なつだいだい、ナツダイダイ 夏柑、なつかん、ナツカン 萩みかん、萩ミカン |
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生薬名 | |
枳実、きじつ、キジツ | |
基原植物学名(ラテン語名) | |
Aurantii Pericarpium | |
生薬英語名 | |
Bitter orange Peel | |
植物英語名 | |
橙(ダイダイ)・・・Citrus aurantium var. daidai Makino 夏蜜柑(ナツミカン)・・・Citrus natsudaidai Hayata |
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分布 | |
橙(だいだい)はミカン属ーみかん科に属する植物で、インド・ヒマラヤ地方が 原産地で日本には古い時代に中国から渡来したと考えられる常緑小高木植物です。 日本では関東より西の暖かい地方(和歌山県、愛媛県など)で栽培されています。 橙の名前の由来ですが、果実は冬に黄色く熟しますが木からは落ちずに冬を越し、 翌年の夏には緑色の変化します。 果実は枝に付いたままで2年から3年は地面に落ちないと言われます。 この様子が「代々」と繋がっているので「代々=橙」と言われるように なりました。 この縁起の良い橙はお正月の鏡餅の上に乗せたり、玄関先の正月飾りに 使用されます。 後、橙は「回青橙(かいせいとう)」とも言われ、上記で書いたように 1年毎に青色から黄色に変化するが果実が地に落ちないのでこう言われます。 橙と言う呼び名で呼ばれるようになったのは中世以降で飛鳥、 奈良時代は「阿部橘(アベタチバナ)」と言われていました。 ちなみに中国では橙を「酸橙」と言います。 阿倍橘(阿部橘)は万葉集に歌の題材になっています。 万葉集ではミカン、ニッポンタチバナを「橘(たちばな)」と言います。 余談・・・日本書紀に「田道間守(タジマモリ)、 「古事記での名前は「多遅摩毛理」」が垂仁天皇の命により延命長寿の香菓の 「非時香菓(ときじくのかくのみ)=今ふうに言えば橘、蜜柑」 を採ってくるように言われ、常世国に渡り無事、採取し帰国したら 垂仁天皇は崩御しており、田道間守は慟哭の後に死去したと言われます。 田道間守を神様として祀っている神社が日本各地にあり、 和歌山県海南市の橘本神社、兵庫県豊岡市の中嶋神社、 京都市左京区の吉田神社、福岡県太宰府市の太宰府天満宮などで 祀られています。 戦前の文部省唱歌に田道間守があります。 万葉集に田道間守を題材に詠んだ歌が2首あります。橘だけを詠んだ歌は 70首ほどあります。 「常世物この橘のいや照りにわご大君は今も見るごと」 ・・・万葉集ー詠み人 大伴家持 橙は「香酸柑橘(こうさんかんきつ)」と言われ、これは酸味が強く、 生食には向いていない果実を指します。 香酸柑橘は香りや風味が良いので料理や果実酒に使用したり、 酸味の成分のクエン酸を多く含んでいるので疲労回復に服用したりします。 香酸柑橘と言われる柑橘類は「レモン」、「柚子」、「橙」、 「かぼす」、「すだち」、「ライム」、「シークワーサー」、「仏手柑」 などを言います。 橙の果汁は酸味が強くて食用には適しませんが、昔は酢の代用に 用いられていました。 余談・・・鍋に入れると鍋が美味くなるポン酢ですが、 これはオランダ語の「ポンス」が由来と言われ、オランダ語のポンスの意味は 橙などの柑橘類の絞り汁との事です。(諸説あります。) マンガ「美味しんぼ」の主人公の山岡士郎が海原雄山からポン酢の 「ポン」の意味を答えよと言われ、山岡士郎は 答えがわからず悩んでいました。 (美味しんぼの作者はオランダ語説を採用しております。) 欧米ではビターオレンジと言われ、果皮をマーマレードの原料に しております。 余談・・・ダイダイの使用部位によって呼び方が変わります。 ダイダイの未成熟果実・・・生薬名 枳実(きじつ キジツ) ダイダイの成熟果皮・・・生薬名 橙皮(とうひ トウヒ) 夏蜜柑はミカン属ーみかん科に属する植物で温かい地方で 果樹として栽培されています。 夏みかんの原産地は山口県長門市青海島(大日比)が原産地と 言われる常緑小高木の植物です。 夏みかんのルーツですが江戸時代中期に夏みかんの種子が漂着したと 伝えられ、ここから全国に広まったと言われます。 (他に自然交配や突然変異で出来た果実と言う説もあります。) 夏みかんは山口県の県の花に指定されており、江戸時代に毛利家の 居城があった萩には沢山の夏みかんが栽培されています。 明治時代に職を失った武士が夏みかんを栽培したことが由来とされています。 夏みかんも最初は酸味が多くて食する果実には向いておらず、 ダイダイと同様に冬の食酢として使用されていました。 時代が下って夏みかんは昭和初期に見つかった新品種の 甘夏柑(アマナツカン)に生産量が追い越されました。 甘夏柑は夏みかんと違って果汁に含まれる酸味が少なく、 早くから食することができるのが特徴です。 枳実は古代中国の書物の「神農本草経」の中薬(中品)に 記載されており、内容として 「味苦寒。生川澤。治大風在皮膚中如麻豆苦痒。除寒熱熱結。 止利。長肌肉。利五藏。益気軽身。」と書かれています。 日本では江戸時代に活躍した古方派の漢方医吉益東洞が書いた薬徴に 書かれており、薬徴によると 「味苦寒、寒熱ヲ除キ、痢ヲ止メ、胸脇ノ痰癖ヲ除キ、停水ヲ逐イ、 結実ヲ破リ、脹満ヲ消シ、心下ノ急痞痛、逆気、喘咳ヲ主ル。」 と書かれています。 他にも枳実は明治時代に活躍した折衷派の漢方医浅田宗伯が書いた 古方薬議のも書かれており、古方薬議によると 「結実ノ毒ヲ主治スル也。傍ラ胸満、胸痺、腹満、腹痛ニ用イル。」 と書かれています。 俳句では「ミカンの花」が夏の季語です。 余談・・・古ければ古いほど良い生薬を昔から「六陳(りくちん)」 と言います。 六陳と言われる生薬は 「陳皮と橘皮」、「枳実と枳穀」、「呉茱萸」、「半夏」、「麻黄」、 「狼毒(ろうどく)」などが六陳と言われます。 六陳と言われる生薬が古ければ良い理由として、 六陳には「精油成分」などが含まれております。 これらの生薬を寝かせることにより精油の揮発を促したり、 空気で酸化させて作用を弱めたり、薬効成分の凝縮をさせたりします。 ちなみに「狼毒」はクワズイモの根茎ではないかと言われます。 狼毒は「神農本草経ー下薬」に猛毒薬のような記載がされており、 非常に危険な生薬と思われます。 後、正倉院の「種々薬帳」にもその名前が見られます。 (聖武天皇も飲用されたかもしれません。) 後、金元医学の第一人者の李東垣が「荊芥」、「大黄」、「木賊」、 「芫花」、「槐花」も古いほうが良い。と述べています。 六陳と言われる生薬も古すぎてもいけません。大体採取してから 2年から3年物が良い生薬と言われます。 六陳の逆のパターンで、新しければ新しいほど良い生薬を 「八新(はっしん)」と言います。 八新と言われる生薬は 「薄荷」、「紫蘇葉」、「菊花」、「桃花」、「赤小豆」、 「沢蘭」、「款冬花」、「槐花」などが八新と言われます。 八新と言われる生薬は六陳とは逆に古くなれば体に良い成分が 揮発しますので、新しい生薬を使用します。 ※昔からの疑問で「槐花」は古いのが良い?新しいのが良い? |
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特徴・形態 | |
橙の特徴ですが常緑の小高木で高さ4〜5メートルぐらいになり、 枝には棘が多数あります。 樹木自体は暑さ、寒さに非常に強く、樹齢が長い木が多々あります。 葉は互生で葉の形は卵形か卵状皮針形で厚みがあり、葉の長さ 約6〜8センチで葉柄には広い翼があります。 葉の先は尖り、葉の縁には小さな鋸歯があります。 花は春に咲き白色大型で直径約4センチ、上端は半開か反転する。 ダイダイの花は5月の終わり頃から6月ぐらいに咲きます。 時折4弁のものが混ざるが、普通は5弁の白い花で、よい香りがする。 開花した直後は雄しべだけが目立つが、やがて中心から大きな柱頭を 持つ雌しべが出てくる。 雌しべの根元にある子房は、小さなダイダイそのものであり、 子房が発達して果実になることがよくわかる。 果実ですが果実は秋ごろまで緑色をしておりますが冬になれば黄金色になり、 春になれば再び緑色になります。 果実を採取しなければ2年から3年ぐらい繰り返します。 故に橙を「回青橙」と言います。 果実の形はほぼ球形で直径は2センチから5センチぐらいで、 果皮の厚みが約1センチぐらいあります。 果肉は中心部から放射線状に8個から16個に区切られた室にあり、 未熟の種子を含んでいます。 果肉の味は酸味と苦味が強いです。 夏蜜柑の特徴ですが樹高は3メートルから6メートルぐらいで 枝は広く広がって成長します。 葉は互生し、葉の形は楕円形で、葉の柄には狭い翼があります。 花ですが5月から6月頃の初夏に枝先の葉えきに白い5弁花を咲かせます。 花は香りがよくて強い香りがします。 果実ですが10月から11月の晩秋にだいだい色の大きな果実を実らせます。 果実は扁球形で直径は2センチから5センチぐらいの大きさで果皮は 約1センチぐらいの厚みがあり、果皮の表面には油室が原因で くぼんだいぼが多くあります。 果肉は中心部から放射線状に8個から16個に区切られた室にあり、 未熟の種子を含んでいます。 果肉の味は酸味と苦味が強いです。 秋に実った夏みかんの果実には酸味と苦味があり、そのまま取らずに 翌年の初夏まで実らせておくと樹上で黄色く熟して酸味が抜けて 食べやすくなります。 (枳実は日本薬局方に記載されています。) |
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成分 | |
橙に含まれる成分として果皮に食物繊維のペクチン、精油、酸味成分のクエン酸、 カリウム、dーリモネン、ベルガプテン、βーカリオフィレン、ヘスペリジン などが含まれています。 夏みかんに含まれる成分は果実に精油とβーリモネン、αーテルピネン、 αーピネン、βーピネンなどが含まれております。 夏みかんの果皮にはナリンギン、ネオヘスペリジンなどが含まれています。 |
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使用部位 | |
橙又は夏みかんの未成熟果実(夏みかんの果実は橙の代用に用いられます。) 生薬名ー「枳実(きじつ キジツ)(日本薬局方) |
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採取時期と管理・保存方法 | |
橙や夏みかんの採取時期ですが5月から6月頃に摘果前の未成熟な果実を採取して、 そのまま又は半分に輪切りにして乾燥させます。 |
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薬効、服用方法 | |
枳実は日本薬局方によると漢方処方用薬としては、瀉下薬とみなされる処方及び その他の処方に配合されている。 他に枳実を服用すると芳香性苦味健胃薬、駆風薬、便通改善薬として食物停滞が 原因の消化不良、食欲不振、便秘、腹痛、膨満感の改善、胃腸炎、 二日酔い予防、船酔い予防などの効能、効果があります。 枳実は体内に停滞した「気」を身体中に巡らせる作用もあり、同じミカン科の 橘皮を併用すると気の巡りを促す作用が高まります。 (枳実のほうが橘皮より気を巡らす作用が強いです。) 枳実を煎じる場合は 枳実約3グラムから5グラムを水600ccから800ccの中に入れて 弱火で15分から20分程煎じて、煎じ終われば薬草は取り除き、 1日数回に分けて服用します。 (味が苦手な方は蜂蜜や甘味料などで甘味をつけても結構です。) 枳実と他の薬草(艾葉、ゲンノショウコ、重薬など)と一緒に煎じて 服用しても良いです。 枳実の粉末を服用する場合 枳実の粉末を1日3グラムから6グラム(小さじ1杯から2杯)を 目安に水またはぬるま湯で1日数回服用するか、お湯に混ぜて服用してください。 (小さじ半分ぐらいが約1グラムです。) 「粉末が咽喉に引っかかる」、「味が苦手」などの支障がある場合は オブラードに包んで服用しても結構です。 |
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生薬との組み合わせ | |
枳実+橘皮・・・枳実と橘皮を併用し服用すると体内で停滞する気を 身体中に巡らす作用が高まります。 枳実+芍薬・・・枳実と芍薬を組み合わせることにより気の停滞で 固まった筋肉の緊張をほぐして、気の流れと血の流れを改善したり、 膨満感の改善が期待できます。 (漢方処方・・・大柴胡湯、排膿散、四逆散、麻子仁丸、枳実芍薬散など) 枳実+大黄+厚朴・・・枳実と大黄と厚朴を組み合わせることにより 腸内の熱と腹部の膨満感を取り除き、便通を改善します。 (漢方処方・・・麻子仁丸、潤腸湯、小承気湯、大承気湯など) |
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枳実を含む漢方処方 | |
大柴胡湯 参蘇飲 清上防風湯 加味温胆湯 荊芥連翹湯 四逆散 五積散 潤腸湯 茯苓飲 麻子仁丸 排膿散及湯 枳実芍薬散 など |
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参考資料 | |
神農本草経ー中薬(中品) 「味苦寒。生川澤。治大風在皮膚中如麻豆苦痒。除寒熱熱結。止利。長肌肉。 利五藏。益気軽身。」 古方薬議 「味苦寒、寒熱ヲ除キ、痢ヲ止メ、胸脇ノ痰癖ヲ除キ、停水ヲ逐イ、結実ヲ破リ、 脹満ヲ消シ、心下ノ急痞痛、逆気、喘咳ヲ主ル。」 薬徴 「結実ノ毒ヲ主治スル也。傍ラ胸満、胸痺、腹満、腹痛ニ用イル。」 |
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その他 | |
特になし | |
注意事項 | |
@本品は天然物(植物)で性質上吸湿しやすいものがあります。 そのため保存には十分ご注意ください。保存が悪いとカビ、虫害等の発生する原因に なることがあります。 A開封後は直射日光の当たらない湿気の少ない涼しい場所に保管してください。 B本品には品質保持の目的で脱酸素剤を入れておりますので、一緒に煎じたり、 食べたりしないようにご注意ください。 C幼児の手の届かない所に保管してください。 D他に容器に入れ替えないで下さい。(誤用の原因になったり品質が変わる場合があります。) |
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参考文献 | |
北驫ルー原色牧野和漢薬草大図鑑 | |
枳実(キジツ)の写真 | |
橙(ダイダイ)ー果実 | 夏蜜柑(ナツミカン)ー果実 |
枳実(キジツ)ー刻み | 枳実(キジツ)ー粉末 |
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