応鐘散(おうしょうさん)
                              (別名 キュウ(※)黄散(きゅうおうさん)又は
                              キュウ黄円(きゅうおうえん) (※キュウ=くさかんむり+弓)


生薬構成

川キュウ(※)2.0   大黄 1.0(※キュウ=くさかんむり+弓)

キュウ(※)黄円原文(※キュウ=くさかんむり+弓)

【楊氏家蔵方】 (積熱方)

治風熱壅盛、頭昏目赤、大便難艱

【勿誤薬室方函口訣】

此方ハ楊氏家藏方ノ主治ヲ至的トス。但風熱壅盛シテ肩強急スル者ハ葛根湯ニ合シ、心下支飲アリテ頭昏目赤スル者ハ
苓桂朮甘湯ニ合スレバ、別シテ効アリ。又頭瘡、耳鳴リ等ニ兼用スベシ。

【南涯吉益先生口述】

東洞先生「大便難く、心下痞し、これを按じて濡にして煩悸する者を治す。また曰く、諸症治し難しくて上衝、不大便の者を治すと」

南涯先生「これ血毒ありて上逆する者を治す。その証、頭痛、耳鳴り、或は頭痒、或は白屑多く、或は瘡を生じ、或は頭眩、
目瞑、或は肩背強り、或は口熱、歯痛、或は血積、不大便の類、諸般上述の毒なり、もし打撲してオ(※)血ある者は蕎麦を
加えて酒にて服す。」(※オ=やまいだれ+於)                  
(参考文献 一般用漢方処方の手引き)

応鐘散解説

応鐘散(別名キュウ黄散)は吉益東洞の書物に見られ、東洞以前の書物には応鐘散(別名きゅう黄散)の名前は見られません。
ただ12世紀の中国の漢方医楊たん(※)の書物「楊氏家蔵方」にキュウ黄円(キュウ黄丸)と言う漢方処方があり、
キュウ黄円(キュウ黄丸)は応鐘散と同じく川キュウ、大黄の2味から構成されており、吉益東洞が漢方処方名を変更したと思われます。
(※たん=にんべん+炎)

(余談・・・浅田宗伯の勿誤薬室方函口訣では応鐘散は「キュウ黄圓」と言う漢方処方名で解説されています。

応鐘散(キュウ黄円)は「楊氏家蔵方」では「風熱壅盛の症状、頭昏、目の疾患(結膜炎、ものもらい、涙嚢炎など)、便秘などの
苦しみを治します。」と記載されております。

「勿誤薬室方函口訣」には「風熱壅盛があり、肩のコリや肩の張りがある場合は葛根湯と合方にしなさい。心下に支飲があって頭昏、
目の疾患(結膜炎、ものもらい、涙嚢炎など)がある者は苓桂朮甘湯と合方にしなさい。後、頭瘡や耳鳴りにも効果があります。」と記載
されています。

元々応鐘散(キュウ黄散)は粉末又は丸薬にして服用していましたが、浅田宗伯が葛根湯、苓桂朮甘湯との合法にすれば薬効が
向上すると述べてから、近年は葛根湯合応鐘散、葛根湯加川キュウ大黄、葛根湯加辛夷川キュウ大黄、苓桂朮甘湯合応鐘散、
桂枝茯苓丸合応鐘散などの合方、加減方として用いられています。


応鐘散適応症

@ 応鐘散は実証、中間証、虚証などの証は無く、粉末にして服用の場合は川キュウ、大黄を粉末にして全量を頓服薬として
服用し、煎じ薬として服用の場合は1日量を煎じて1日数回に分けて服用します。

A 応鐘散を単独で服用する場合もありますが、葛根湯、苓桂朮甘湯などと合方にて服用する場合が多いです。

B 応鐘散は大黄が配合されているので普段からお通じが良い場合、又は長期服用の場合に軟便、下痢便などの症状が出る場合が
ありますので注意が必要です。また場合によっては大黄の分量を減らすか、取り除いてもよいでしょう。

C 応鐘散は桂枝が含まれている漢方処方(葛根湯、桂枝茯苓丸、苓桂朮甘湯など)や小柴胡湯、大柴胡湯と合方、又は兼用する事が
多いです。

D  以上の事から応鐘散の適応症は

  
麦粒腫(ものもらい)
   参考処方 
(実証=葛根湯) 
          
(中間証=十味敗毒湯、十味敗毒湯加連翹など) 
          
(虚証=排膿散)

  ・涙嚢炎

   参考処方 
(実証=葛根湯、葛根湯加川キュウ、越婢加述湯、小青竜湯など) 
           (中間証=五苓散、十味敗毒湯、十味敗毒湯加連翹など)
          
(虚証=苓桂朮甘湯)

  
・結膜炎 
   参考処方
 (実証=葛根湯、葛根湯加川キュウ、越婢加述湯、小青竜湯など)
          
(中間証=十味敗毒湯、十味敗毒湯加連翹など)

  
・合方・兼用
   葛根湯、葛根湯加辛夷、桂枝茯苓丸、苓桂朮甘湯、小柴胡湯、大柴胡湯などとの合方・兼用

などに適応されます。


各生薬の解説

応鐘散は川キュウ、大黄の2味で構成されており、他の漢方処方のように川キュウと大黄の組み合わせでは生薬同士による
相互作用はあまり期待できません。

川キュウは温剤、大黄は寒剤に属しますが共に共通するのが駆オ血作用がある事です。

川キュウは駆オ血、補血、鎮痛作用があり、貧血、冷え症、婦人病などに用いられます。大黄は駆オ血、下剤作用があり、腹痛、
便秘、黄疸などに用いられます。


湯薬、散薬、丸薬の解説

漢方処方の名称には「○○湯」、「△△散」、「□□丸」と言われる漢方処方があります。

「○○湯」は生薬を水から煎じて、煎じた液体を服用する漢方処方をこう言います。
(他に温清飲、治頭瘡一方など「○○飲」、「○○一方」も煎じ薬の仲間です。)

「△△散」は生薬を粉末にして、その粉末を服用する漢方処方をこう言います。

「□□丸」は粉末にした生薬を蜜蝋などで固めて粒状にして、その粒を服用する漢方処方をこう言います。

このようなやり方は傷寒論、金匱要略など2000年も前の書物に見られ、現代に伝わってきています。
なぜ2000年も前の人がこのような方法で漢方薬を服用したのでしょう?
現代のように科学的な知識を持たない大昔の人々は長年の経験で「○○は煎じよう。」、「△△は粉末にしよう。」、「□□は丸薬にしよう。」
と生薬がもつ薬効を有効に引き出せる方法を考慮したものと言えます。

主に煎じ薬の場合は水から煎じると薬効が出やすい生薬が多く使われています。

粉末の場合は水から煎じたり、熱を加えたりすると生薬が持つ有効成分が蒸発してしまう生薬(釣藤鉤、沢瀉など)を含むものが多いです。

丸薬の場合は煎じなくても体内に吸収しやすい生薬を含むものが多いです。

後、近年普及している漢方のエキス剤の場合は煎じ薬に近く、手間隙かけずに服用する事が出来ます。
しかし元々は粉末にして服用していた漢方処方、丸薬にして服用していた漢方処方をエキス剤にした場合に、薬効が落ちる場合があります。
(煎じ薬の漢方処方と同様の方法でエキス化する為に従来の粉末薬、丸薬が持つ薬効が劣化するとデータがあります。)

私の店舗もエキス剤は販売していますが、私自身は粉末薬、丸薬をエキス化した漢方処方はあまり服用しないようにしています。


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