甘草乾姜湯(カンゾウカンキョウトウ)

生薬構成

甘草 4.0 乾姜 2.0

甘草乾姜湯原文

【傷寒論】 (辨太陽病脈證併治法上第五 太陽病、上篇)

傷寒、脈浮、自汗出、小便数、心煩,微悪寒、脚攣急、反与桂枝欲攻其表、此誤也。得之便厥、咽中乾、煩躁吐逆者、作甘草乾姜湯与之、
以復其陽。若厥愈足温者、更作芍薬甘草湯与之、其脚即伸。若胃気不和、譫語者、少与調胃承気湯。若重発汗、復加焼針者、四逆湯主之。

甘草四両(炙) 乾姜二両

上二味、以水三升、煮取一升五合、去滓、分温再服。


【金匱要略】 
(肺痿肺癰咳嗽上気病脈證治第七)


肺痿吐涎沫而不咳者、其人不渇、必遺尿、小便数、所以然者、以上虚不能制下故也。此為肺中冷、必眩、多涎唾、甘草乾姜湯以温之。
若服湯已渇者、属消渇。


甘草四両(炙) 乾姜二両(炮)
上寝咀、以水三升、煮取一升五合、去滓、分温再服。

【勿誤薬室方函口訣】

此方ハ簡ニシテ其用廣シ。傷寒ノ煩躁吐逆ニ用ヒ、肺
痿ノ吐涎沫ニ用ヒ、傷胃ノ吐血ニ用ヒ、又虚侯ノ喘息ニ此方ニテ黒錫丹ヲ送下ス。
凡肺痿ノ冷症ハ、其人肺中冷気虚シ、津液ヲ温和スルコト能ハズ、津液聚テ涎沫ニ化ス故ニ唾多ク出ヅ。然レドモ熱症ノ者ノ唾、凝テ
重濁ナルガ如ニ非ズ。又咳ナク咽渇セズ、彼遺尿小便數ナリ。此症ニ此方ヲ與テ甚ダ奇効アリ。
又病人此方ヲ服スルコトヲ嫌ヒ、咳ナク只多ク涎沫ヲ吐シテ唾ニ非ル者ハ桂枝去芍薬加皀莢湯ヲ用テ奇効アリ。
又煩躁ナクテモ、但吐逆シテ苦味ノ薬用ヒ難キ者、此方ヲ用テ弛ルトキハ速効アリ。
甘草乾姜湯解説

この処方は傷寒論と金匱要略に書かれており別名で二神湯(ニシントウ)、二宜丸(ニギガン)と言います。

傷寒論では「傷寒の患者で浮脈、汗が出て、小便の回数が多く、胸が苦しく、少し寒気がして足が震える、足がひきつるなどの症状が
あるので桂枝湯で
表証を攻めるのは間違いである。
桂枝湯を用いた後や、病状が悪化して身体が冷えて咽喉が渇き、うめき、嘔吐する者は甘草乾姜湯を服用させなさい。

これで陽の気が回復します。
甘草乾姜湯で身体や足の冷えが治れば、次に芍薬甘草湯を服用させると足を伸ばせる事ができます。
胃の調子が悪く(便秘の意味もある。)、うわ言を発するようであれば少量の調胃承気湯を服用させなさい。
一度発汗剤(桂枝湯など)を与えて更に発汗剤を服用させた、焼針をしてみたなどの処置を試みたが駄目な場合は四逆湯を用いなさい。」
と書かれています。


金匱要略では「肺病(肺結核)で泡の混じった唾を出すが咳は無く、喉も乾かないが小便を漏らしたり小便の回数が多い患者は、
上焦(肺)の働きが弱って下焦(腎)の機能がおかしくなっています。これは肺が冷えているのが原因で必ず眩暈があり、唾やよだれが
多くでます。ですので甘草乾姜湯を用いて身体を温めなさい。
ただし甘草乾姜湯を服用して咽喉が渇く場合は消渇に属します。」と書かれています。

甘草乾姜湯は太陽病、桂枝湯の項に書かれており、症状的には桂枝湯が適応症であるので処方してみよう思うが桂枝湯は不適用であり、
後の処置について書かれています。
確かに浮脈で汗が出る、軽い寒気があるなどの症状は太陽中風表熱の桂枝湯で解熱を図るのが普通ですが、胸が苦しく、足が震える、
小便の回数が多いなどの症状は陽気が虚した者又は少陰の虚証の症状と言えます。

体内、特に上部に寒があるのに発汗剤を用いると発汗作用と寒による利尿作用により脱水症状が起こり喉の渇き、うめき、嘔吐などの
症状が現れます。そこで甘草乾姜湯を用いて身体を温めて陽気の回復を行います。

足が震える、足がひきつるなどの症状は裏の血虚が原因です。この場合は芍薬配合の芍薬甘草湯で血虚を補います。

金匱要略に書かれているように上焦(肺)の機能が低下すれば津液が唾、よだれになって体外に排出されます。
他に上焦の機能低下により陽の気の働きが悪くなり、それが下焦(腎)の機能低下を招きます。
それが原因で小便を漏らしたり小便の回数が多くなったりします。
そこで上焦を温めて肺の機能を正常に整える甘草乾姜湯が用いられます。

余談ですが、下記の表によると
甘草 乾姜 茯苓 人参 白朮
甘草乾姜湯 4両 2両
人参湯 3両 3両 3両 3両 3両
苓姜朮甘湯 2両 4両 4両 2両
と甘草と乾姜の配合量が漢方処方により異なります。

ちなみに
甘草乾姜湯・・・・・・上焦(肺)の冷えの改善と機能向上薬
人参湯・・・・・・・・・・中焦(胃)の冷えの改善と機能向上薬
苓姜朮甘湯・・・・・・下焦(腎)の冷えの改善と機能向上薬
であります。

乾姜と甘草の働きとして
乾姜は身体を温めて冷えや寒、寒が原因の疼痛や水分、体液の停滞を取り除きます。
他に胃腸を温めるので嘔吐を抑えたり、健胃作用もあり、胃腸と同じく肺も温めるので咳嗽、呼吸困難、水のような薄い痰
などに用いられます。

甘草は肺を潤す作用があり咳嗽や喘息の症状緩和が期待できます。他に痙攣防止や痙攣を取り除いたり、痙攣の痛みを
緩和させる作用もおります。
一番の甘草の役割として色々な生薬の効能効果の調和を図ったりする作用もあります。(特に乾姜や附子、石膏、大黄、芒硝
などの大熱薬や大寒薬、下剤と言われる生薬の効能効果を和らげるために一緒に配合されます。)

乾姜は肺(上焦)や胃腸(中焦)によく働くので少量の乾姜を配合します。その少量でも肺や胃腸に効果のある乾姜の効き目を
和らげるために甘草が多めに配合されています。

参考・・・甘草と乾姜が配合された漢方処方を下に書いておきますので参考にしてみてください。


甘草乾姜湯+白朮+茯苓=苓姜朮甘湯

甘草乾姜湯+白朮+人参=人参湯

甘草乾姜湯+白朮+人参+桂枝=桂枝人参湯

甘草乾姜湯+白朮+人参+附子=附子理中湯

甘草乾姜湯+附子=四逆湯

甘草乾姜湯+附子+人参=四逆加人参湯

甘草乾姜湯+附子+人参+茯苓=茯苓四逆湯

甘草乾姜湯(四逆湯より甘草、乾姜の量が多い)+附子=通脈四逆湯

甘草乾姜湯+麻黄+桂枝+半夏+芍薬+五味子+細辛=小青竜湯

甘草乾姜湯+半夏+黄ごん+黄連+大棗+人参=半夏瀉心湯

甘草乾姜湯+柴胡+桂枝+黄ごん+牡蛎+括呂根=柴胡桂枝乾姜湯

甘草乾姜湯+茯苓+五味子+細辛+半夏+杏仁=苓甘姜味辛夏仁湯


甘草乾姜湯適応症

以上の症状から甘草乾姜湯の適応症は
・気管支炎、気管支喘息

・手足の冷え

・多尿、頻尿

・よだれ、多量の唾
などに用いられます。


各生薬の役割

甘草乾姜湯に含まれる生薬は2種類しかないが、上記にも書きましたが甘草と乾姜の働きとして
乾姜は身体を温めて冷えや寒、寒が原因の疼痛や水分、体液の停滞を取り除きます。
他に胃腸を温めるので嘔吐を抑えたり、健胃作用もあり、胃腸と同じく肺も温めるので咳嗽、呼吸困難、水のような薄い痰
などに用いられます。

甘草は肺を潤す作用があり咳嗽や喘息の症状緩和が期待できます。他に痙攣防止や痙攣を取り除いたり、痙攣の痛みを
緩和させる作用もおります。
一番の甘草の役割として色々な生薬の効能効果の調和を図ったりする作用もあります。(特に乾姜や附子、石膏、大黄、芒硝
などの大熱薬や大寒薬、下剤と言われる生薬の効能効果を和らげるために一緒に配合されます。)

甘草配合の漢方処方をいくつも摂取(甘草の大量服用)する事により、浮腫(むくみ)を生じたり血圧が上がってくることがあります。
これを「偽アルドステロン症」と呼ばれる症状です。
ですので甘草を含む漢方処方の併用には注意が必要です。
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