カッ香正気散(かっこうしょうきさん)
                           (※カッ=くさかんむり+霍)

生薬構成

白朮 3.0  半夏 3.0  茯苓 3.0  厚朴 2.0  大棗 2.0  陳皮 2.0  
桔梗 1.5  蘇葉 1.0  生姜 1.0  白シ 1.0  甘草 1.0  カッ香 1.0  
大腹皮 1.0

カッ香正気散原文

【太平恵民和剤局方】 (治傷寒)

治傷寒頭疼、増寒壮熱、上喘咳嗽、五勞七傷、八般風痰、五般膈氣、心腹冷痛、反胃嘔惡、氣瀉霍亂、藏腑虚鳴、山嵐瘴瘧
(※)
遍身虚腫、婦人産前産後、血氣刺痛、小兒疳傷、並皆治之。

【勿誤薬室方函口訣】

此方ハ元嶺南方ニテ、山嵐瘴気ヲ去ガ主意ナリ。夫ヨリ夏月脾胃ニ水濕ノ氣ヲ蓄へ、腹痛下痢シテ頭痛惡寒等ノ外症ヲ顕ス者ヲ治ス。
世ニ不換金正氣散ト同ク夏ノ感冒薬トスレドモ方意大ニ異ナリ。


カッ香正気散解説

この漢方処方は太平恵民和剤局方と勿誤薬室方函口訣に書かれており、太平恵民和剤局方では「傷寒、頭疼、悪寒と発熱、咳、
頭痛、めまい、冷えによる腹痛、嘔吐、日射病、下痢、婦人の産前産後の神経的な痛み(血気刺痛)、小児の食毒が原因の
色々な症状などに効果があります。」と記載されています。

参考・・・(※)山嵐瘴瘧(さんらんしょうぎゃく)は山、川、嵐などの自然に潜む熱病(マラリア)に感染する事を述べています。

また勿誤薬室方函口訣には「本方は熱病治療に用いられます。夏場に胃腸が水毒が原因の腹痛、下痢症状を発し、頭痛や悪寒を
伴う者を治します。カッ香正気散は不換金正気散と同じく夏の感冒薬として用いられます。」と記載されています。

かっ香正気散は上記の内容を総合すると夏風邪、日射病、熱中症、嘔吐、下痢等の夏の暑さや夏風邪や冷房器具による体調不良や
生もの、冷たい飲食物による胃腸疾患に用いると良いです。

元々カッ香正気散は二陳湯を基本とし、二陳湯に蒼朮、厚朴、大棗などの生薬を加えたのが平胃散と呼ばれ、平胃散にカッ香、
半夏などの生薬を加えたのが不換金正気散と呼ばれ、不換金正気散に茯苓、桔梗、紫蘇葉、白シ、大腹皮を加えて利尿作用を
強化したのがカッ香正気散であります。

二陳湯、平胃散、不換金正気散は元々内傷の治療薬として有名で、水毒や食毒が原因の症状に用いられます。
後、本方に含まれる生薬に暑邪、湿邪、熱邪などの外感を取り除く効果のある生薬が含まれており本方は、内傷治療、外感治療の
どちらでも利用できます。

カッ香正気散には消暑作用があり、矢数道明先生は夏バテ予防、夏場の胃腸機能低下予防に効果があると先生の書物に
書かれています。

他にカッ香正気散にヨクイニンを大量に加えれば幼児性、青年性のイボにも効果があります。

参考・・・かっ香正気散の正気とは乱れた「気」を正常に戻すと言う意味があります。
カッ香正気散の場合は「脾」と「胃」の「気」が夏の暑さ、夏風邪、冷たい飲食物の影響で乱れ、下痢、腹痛、食欲不振などの症状を
カッ香を主薬とした処方で治療します。

又、上記で示した病気や症状は昔の書物に出てくる霍乱の病と言えます。

参考・・・昔の書物に記載されている霍乱の「霍」は(くさかんむり+霍)にて記載されています。


カッ香正気散適応症

@ かっ香正気湯の適応症は実証から中間証の人が適応されます。虚証の人には清暑益気湯、補中益気湯を用います。

A 本方を用いる機会が多いのは夏場で、夏風邪、しょくあたり、暑さ負け、夏の下痢、冷房器具や冷たい飲食物の悪影響などの
症状に用いられます。


B 婦人の産前産後の神経の高ぶりによる腹痛、小児の消化不良が原因の咳嗽や咽喉痛に用いられます。

C 本方は幼児のイボにも使用され、イボに用いられる時はヨクイニンを加えて用います。

D 以上の事からカッ香正気湯の適応症は

  
・夏風邪

   参考処方 
(実証=麻黄湯、桂枝湯、葛根湯、桂麻各半湯など) 
          
(中間証=柴胡桂枝湯、小柴胡湯など) 
          
(虚証=真武湯、麻黄附子細辛湯、四逆湯など)

  ・日射病、熱中症、嘔吐

   参考処方 
(中間証=五苓散、不換金正気散など)
          
(虚証=清暑益気湯、補中益気湯など)

  
・胃腸炎、夏のしょくあたり 
   参考処方
 (実証=半夏瀉心湯、生姜瀉心湯、黄連湯など)
          
(中間証=柴胡桂枝湯、甘草瀉心湯、清熱解鬱湯など)
          
(虚証=安中散、小建中湯、桂枝加芍薬湯、人参湯、旋覆花代赭石湯など)

  
・幼児性、青年性のイボ
   
参考処方 (証に関係無い処方=ヨクイニン煎、ヨクイニン夏枯草煎、紫雲膏など)
          (実証=越婢加述湯加ヨクイニン、麻杏ヨク甘湯など)
          (中間証=五苓散、加味逍遙散加ヨクイニン、桂枝茯苓丸加ヨクイニンなど)

などに適応されます。


各生薬の解説

上記で示したようにカッ香正気湯は二陳湯(陳皮、茯苓、半夏、甘草で構成)に生薬を加えた漢方処方で二陳湯は胃内停水を去り、
嘔吐を鎮め、利尿作用を促します。

陳皮、厚朴、大腹皮、紫蘇葉、半夏、カッ香は理気薬と呼ばれ、気逆や気の上衝、気の乱れを改善します。

又茯苓、白朮、大腹皮,半夏、陳皮は利水剤と呼ばれ胃内停水、排尿困難、嘔吐などの水の乱れを改善します。

他にカッ香正気湯は消法にも属します。

本方に含まれている生薬の組み合わせで半夏+陳皮や厚朴+紫蘇葉、半夏+厚朴の組み合わせは湿邪が原因の咳嗽を鎮めます。
陳皮+生姜、半夏+生姜の組み合わせは湿邪が原因の嘔吐を鎮め、健胃作用があります。

白朮+茯苓、大棗+生姜、大棗+白朮の組み合わせには利尿作用があり下痢の緩和、胃内停水の除去作用があります。


湯薬、散薬、丸薬の解説

漢方処方の名称には「○○湯」、「△△散」、「□□丸」と言われる漢方処方があります。

「○○湯」は生薬を水から煎じて、煎じた液体を服用する漢方処方をこう言います。
(他に温清飲、治頭瘡一方など「○○飲」、「○○一方」も煎じ薬の仲間です。)

「△△散」は生薬を粉末にして、その粉末を服用する漢方処方をこう言います。

「□□丸」は粉末にした生薬を蜜蝋などで固めて粒状にして、その粒を服用する漢方処方をこう言います。

このようなやり方は傷寒論、金匱要略など2000年も前の書物に見られ、現代に伝わってきています。
なぜ2000年も前の人がこのような方法で漢方薬を服用したのでしょう?
現代のように科学的な知識を持たない大昔の人々は長年の経験で「○○は煎じよう。」、「△△は粉末にしよう。」、
「□□は丸薬にしよう。」と生薬がもつ薬効を有効に引き出せる方法を考慮したものと言えます。

主に煎じ薬の場合は水から煎じると薬効が出やすい生薬が多く使われています。

粉末の場合は水から煎じたり、熱を加えたりすると生薬が持つ有効成分が蒸発してしまう生薬(釣藤鉤、沢瀉など)を含むものが
多いです。

丸薬の場合は煎じなくても体内に吸収しやすい生薬を含むものが多いです。

後、近年普及している漢方のエキス剤の場合は煎じ薬に近く、手間隙かけずに服用する事が出来ます。
しかし元々は粉末にして服用していた漢方処方、丸薬にして服用していた漢方処方をエキス剤にした場合に、薬効が落ちる場合が
あります。
(煎じ薬の漢方処方と同様の方法でエキス化する為に従来の粉末薬、丸薬が持つ薬効が劣化するとデータがあります。)

私の店舗もエキス剤は販売していますが、私自身は粉末薬、丸薬をエキス化した漢方処方はあまり服用しないようにしています。

Copyright(C)2005yanagidou All Rights Reserved.